ひとりSD

地方私大職員の備忘録

改革総合支援事業は経常費補助金交付額にどう影響したか? (その1)

補助金の交付状況|私学振興事業(助成業務)|私学事業団

 

26年度の交付状況が公表されたら、やってみようと思っていたことがあります。今回・次回はその内容です。

25年度より、文科省が推奨する取り組みの実施状況に応じて経常費補助金を傾斜配分する「私立大学等改革総合支援事業」が始まりました。大学に対する経常費補助金の配分総額は横ばいのため、改革総合支援事業の選定校に対する補助金の増額分は、落選校の減額分から充当されることになります。改革総合支援事業が経常費補助金交付額にどの程度の影響を及ぼしたか、事業開始前の24年度と、25・26年度の配分額を比較しながら検証したいと思います。改革総合支援事業とは、文科省が推奨する数タイプの取組をどれだけこなしているか、大学別に実施状況を得点化し、合格点に達している大学に補助金を付ける事業です。26年度は「大学教育の質向上」「地域発展」「産学連携」「グローバル化」の4タイプ、25年度は3タイプで実施状況の調査がありました。ざっくり喩えるならば、国語・算数・理科・社会のテスト用紙を大学に配り、「何科目で合格点が取れたかな?より多くの科目で合格点を取れた大学を優遇しますよ」といったイメージです。25年度はテストが3科目、26年度は4科目に増えました、と言ったところでしょうか。事業の詳細は以下のリンク先をご確認ください。

私立大学等改革総合支援事業:文部科学省

 

まず、上記リンク先に公開されている選定状況を基に、25年度に合格点を取った科目の数(=選定数)を横軸、26年度の選定数を縦軸に取ってクロス集計しました。なお、改革総合支援事業は選定されなかった大学が公表されないため、経常費補助金が交付されている568校を母数としました。改革総合支援事業のテストを受けたのは、この568校のうち505校です。テストを受けなかった63校は26年度選定ゼロの249校に含まれています。

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26年度に4つのテスト全てで合格点を出せたのは僅か8校と、非常に少数です。ちなみに収容定員8,000人以上かつ3大都市圏に立地する大学は最大3科目しか受験できない仕組みになっていますので、4科目で合格点を出せるのは地方に立地しているか、8,000人以下の中堅大学に限定されます。4つ全部で合格点を出した8校は、云わば「中堅私大・地方私大の星」「大学改革の優等生」といった位置付けと言えるでしょう。私も勤務先でテストの回答作成に関わりましたが、よほど優秀な教職員が揃っているか、トップ層(理事長・学長)が強力なリーダーシップを発揮するか、どちらかでなければ全科目合格は無理と感じました。経営資源に乏しい地方の大学は後者(理事長・学長)の要素が強いと思います。

この優秀な8校とは、
青森中央学院大学
仙台大学
国際医療福祉大学
明海大学
芝浦工業大学
女子美術大学
金沢工業大学
福岡工業大学
です。右に☆がついている4校は、25年度も全科目合格点の超優等生です。

さて、今回はこの8校の経常費補助金受給状況を観察します。経常費補助金は、学生数や教職員数に応じて決まる一般補助と、文科省が推奨する取組(障害者対応や就職支援、経済困窮者対策など)の実施状況に応じて決まる特別補助に分けられます。テストで合格点を取ると、点数に応じて800~1,200万円の金額が経常費補助金の特別補助に上乗せされます。また、一般補助のうち教員経費と学生経費に対する補助が増額(26年度は19.1%増)されます。上記8校は特別補助で4科目×800~1,200万=3,200~4,800万、一般補助でいくらかの上乗せがなされていることになります。特別補助は金額の内訳まで公開されていますので調べることも可能ですが、大変なのでそこまでは追わないことにします。

以上を踏まえ、「優秀な大学にどれだけ嵩上げされたか」見てみたいと思います。まず、金額の推移について表とグラフを用意しました。なお、合計=一般補助+特別補助 です。

 

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…いかがでしょうか。特別補助だけのグラフはやや右肩上がりの傾向が見えますが、一般補助及び合計のグラフにはくっきりした傾向は見えません。今度は、改革総合支援事業が始まる前の24年度の補助金額を100とした場合の比較で作表・作図してみました。

 

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先ほどより移り変わりが見えやすくなったと思います。

何より明海大学の落ち込み具合が目立ちますが、これは同校歯学部の入学定員超過が原因と思われます。医歯学部は入学定員の1.1倍以上の学生を入学させると経常費補助金が貰えなくなります。ホームページを見るかぎり、120名定員のところ137名の入学者がいたようです。131名に抑えておけばペナルティは科せられなかったことでしょう。僅か6名でこれほどの差が出るとは恐ろしいものです。これは改革総合支援事業とは無関係の内容ですね。

 

補助合計額の上昇幅が一番大きかったのは青森中央学院大学、次いで福岡工業大学女子美術大学ということが分かりました。一方、芝浦工業大学金沢工業大学については24年度よりも減少していました。この2校は大学改革に熱心な大学として有名ですので、減っているのが意外でした。仙台大学は一般補助の減額分を特別補助の増額で補い、24年度より受給額を増やしていますが、収容定員が多く一般補助の金額が大きい大学は減額分を賄いきれなかった、といったところでしょうか。

 

改革への取組状況に関係なく配分される一般補助は縮小し、特別補助やスーパーグローバル・AP・COCなどの競争的資金で差を付けよう、というのが昨今の大学行政のトレンドですが、色んな取組を積極的に進めているからといって一律に優遇される訳では無いことが分かります。規模の大きい大学にとって改革総合支援事業は、選定された・されなかったで一喜一憂するほどの影響は無いとも言えるでしょう。

 

一方、小規模大学にとっては、大切な補助金収入を前年より10%・20%と増やせる機会となるのですから、一生懸命取り組む価値はありますし、選定され続けた大学とそうでない大学では長期的に大きな開きが生ずると思われます。もっとも、この事業がそこまで長く続くとも思っていませんが。

 

次回は、優秀な大学と選定されなかった大部分の大学とを比較します。

公立化の問題点をまとめておく

年度末の〆と年始の事務作業で忙しい日が続き、開始早々1ヶ月近くサボってしまいました。

この間、26年度の経常費補助金の配分状況やら27年度の配分方法、各種国家試験の大学別合格率の発表など、書くべきネタが目白押しでしたが、とりあえず学研・進学情報に掲載されていた地方私大の公立化に関する記事を見て思うところがあったので、今回はそれについて書いておこうと思います。

 

特別レポート 公私協力方式の私大の公立化

 

上記の記事は、公立化を進めている福知山市の成美大学と山陽小野田市山口東京理科大学を例に挙げ、地方にとって専門性を有する大卒人材は大切であり、地域への人材輩出を担う地方大学の役割は重要である、公立大学ならば学費が安く地元高校生にとって有力な選択肢となる、出願先として全国区となり域外から学生が流入して学びの質が高まることが期待できる、地域の活性化にもつながる、よって公立化は歓迎すべき、といった論調で書かれています。

 

確かに大学が一つしかないような地域においては、小規模であっても若者や専門知識を有する人材(教員)が集まる場所として大学の存在感は大きく、地元経済に与える影響も考慮すると、失くしてしまうのは避けたいと考えるのは自然と思います。しかし、現状の公立化のあり方に少なからず疑問があります。と言うのも、公立化が「学生募集で行き詰った大学への救済措置」という側面が強いからです。

 

これまでに公立化した大学は、開設資金を自治体が負担する「公設民営方式」で設置された大学だけでしたので、自治体からすれば大学存続を支援することが公有財産の保全につながるという側面もあります。それらの過去の財務情報を見ると、財務体質がさほど悪化してしない段階で公立化を図っていました。しかし最近の事例を見ると、学生募集のみならず財務体質も深刻なまでに悪化している大学が散見されます。本来ならば大学間競争の中で市場から退出すべき大学が、公立化によって大幅な価格低減を実現し、一発逆転で生き長らえようとしている、というようにも見えるわけです。

 

特に地方の大学は、国立>公立>>>私立といった序列で固まっています。都市部の高校生・保護者ならば、「地方の国公立大に進むよりは自宅から通えるMARCHクラスを目指そう(私立>国公立)」といった進路選択も成り立つでしょうが、保護者の所得水準が低い地方においては、保護者も教師も生徒本人もまず国公立を希望し、学力の高い生徒から国公立に入っていきます。

 

地方私大は、国公立に進めなかった生徒の中から可能な限り優秀な人物を定員分だけ確保すべく、魅力ある学部・学科構成を整備したり、教育研究の質向上・進路指導や学生サービスの充実を図ったり、積極的な広報活動を展開したりと、大学同士で競い合っているわけです。そうした中にあって、私立の中で下位にあった大学が、公立化することで一気に他の私大を飛び越え、学力の高い生徒をかっさらっていくのは倫理的にいかがなものかと思います。

 

18歳人口が減少してパイが縮小する中、下位校から次々に公立化していった場合、地道な経営努力によって健闘している私大でも公立大に生徒を奪われ、定員割れに陥ってしまう可能性が十分にあります。長野の新県立大学に反対する松本大学も「民業圧迫」を訴えているわけですが、公立校の増設や定員増は近隣の私立大学にとっては非常に痛手となります。松本大学は優れた地域貢献の取組で大学関係者には有名ですが、これまで頑張って貢献してきた自治体が逆に自分達に不利な方向へ動いているとなっては、憤りたくなるのも当然でしょう。

 

公立化は雇用が維持される教職員をはじめ、地元の高校生・保護者にとってはありがたいことです。また、引き受ける自治体には公立大学の運営経費として総務省から補助金が貰えるため、さほど痛みはありません。しかし、公立化で学費が安くなった分は税金で賄われるので、国全体では高等教育予算の拡大を招くことになり、「ミッション再定義」やらで国立大学の予算を減らそうという文科省なり財務省の動きには逆行しています。「競争力のある大学に予算を重点配分する」という近年の文科省の方針に照らし合わせても、競争力の低い大学への救済措置として公立化が行われることは問題視されているでしょう。

 

ただでさえ大学が多いと言われる時代です。公立化と言い出す前に、カリキュラムの見直しや定員削減、人件費削減、他大学との合併などの施策は十分に協議されたのでしょうか。「公立化すれば学費が安くなります」というだけで、中身は大して変わっていない、という状況にはなっていないでしょうか。国の税金投入を増やしてまで存続させるだけの、人材輩出なり地域貢献なりの実績はあるのでしょうか。こうした議論が透明な場所で行われていない限り、納税者の納得は得られないでしょう。

 

「地方創生」の大義の下に公立化が許容される時期がしばらく続くのか、あるいは歯止めをかけるための指針が早々に公表されるのか、どちらに転ぶか注目されます。厳しいルールが設けられる前に、危ない大学から我先にと、地方創生の波に乗って安易な公立化ラッシュを起こしたりしないことを祈ります。

 

などと偉そうに言いながら、弱小私大に勤める身としては、勤め先が公立化してくれたらどれだけ頼もしいことだろう、と思ってしまうのが本心です。自分の勤め先は、いざ公立化してくれないかという時に、周囲から反対運動が起こらない程度に、健全な財務体質と地域貢献の実績と、高い政治力を兼ね備えていなければ、などと思っています。

 

(メモ)

<公立化した大学>

高知工科大学(2009)、名桜大学(2010)、静岡文化芸術大学(2010)、鳥取環境大学(2012)、長岡造形大学(2012)

 

<公立化準備中・協議中の大学>

長野大学(公設民営)、成美大学、旭川大学、新潟産業大学、山口東京理科大学

 

<残る公設民営大学

稚内北星学園大学東北公益文科大学東北芸術工科大学姫路獨協大学九州看護福祉大学

 
 

(今回の要点)

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G型L型の議論は広く深く続けられている

実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議:文部科学省

 

昨年10月から始まっている上記の会議ですが、その後も毎月1~3回のペースで開催され、大学関係者としては非常に刺激的な議論が続けられています。もともとは、大学の教育課程では産業界が求める人材を育成できていないとの世論に端を発し、大学教育の質保証論議が進められてきた経緯があり、それでも大学教育と職業との接続を担保するには至らないということで、今度は既存の大学とは異なる職業直結型の教育機関を作ろうか、といった流れでこの会議が開かれています。

 

コンサルタントの冨山和彦氏がこの会議の初回に提出した資料が非常に「刺さる」内容だったため、世間的に随分と話題になりました。この時点で世間的には、G型大学=「高偏差値&研究内容で世界と戦える大学」、L型大学=「旧帝大以下の偏差値&目立った研究実績の無い私大・地方国公立大」というイメージが広がったようです。地方国公立大や私大の関係者による、「自分の大学をL型と言ってもらっては困る」「大学には教養を育むという立派な使命と存在意義がある。それを無視して職業教育に傾注しろとは何事か」というような拒否反応が多く見られました。また、世間一般の反応も「簿記やら大型免許やらを取らせるだけの学校を大学と言えるのか」といった懐疑的な見方が多いように感じました。先日は朝日新聞に次のような記事が掲載されています。

 

(争論)文系学部で何を教える 冨山和彦さん、日比嘉高さん

 

どうも冨山氏の初回提出資料が刺さりすぎたせいか、その拒否反応と違和感は今でも尾を引いているようです。日比氏は「大学を職業訓練校にする案」と文系学部不要論に対する拒否反応に終始し、問題(国の教育予算削減が問題なのではなく、文系学部の教育課程が産業界から評価されず、卒業した学生が確かな職に就けないことが問題)を直視せず、解決策も十分に提示できていないように思えます。

 

こうした反応で止まってしまっている大学関係者を尻目に、有識者会議での議論は広く深く進んでいっています。冨山氏の資料を見た限りでは「大学の職業訓練校化」を推し進める施策を練っているような印象を持ってしまうかもしれませんが、この会議では並行して短大・高専・専門学校の立ち位置と教育内容を見直す議論を行っています。というより、第2回以降は後者の議論の方がメインに展開されてきています。各回の配布資料は示唆に富むものが多く、短大・高専・専門学校の関係者は必読の内容と思いました。

 

冨山氏の提案内容も初回の資料と比べ、かなり様変わりしてきました。今年1月開催の第8回会議では、次のような資料が配布されています。

 

新たな高等教育機関を「4流の大学もどき」にしないために

 

私個人としては、地方私大に務める身として冨山氏の提出資料は初回・第8回ともに非常に合理的と感じ、肯くところは多くあります。ブランド力の無い地方の私立大学にとっては、「資格を取得でき、地元の国立大と比べて遜色ない仕事に就ける(年収を得られる)」ことを売りにするのが最も効率よく学生を集められる手段と感じているからです。また、自分自身の学生時代(都内私大の文系学部)を振り返っても、「学生の自主性に任せる」との文言を掲げて実質的に学生を放置し、学校として踏み込んだ就職支援も行われず、就職活動で要らぬ苦労と迷走を経験したこともあって、大規模校の既存の文系学部には懐疑的な見方を持っています。私が在学していた当時に比べれば全体的にサポートは手厚くなっていると思いますが、学生の職業能力を育み、就職までしっかり面倒を見ている文系学部は、今でも少数に限られるのではないでしょうか。(ホームページやパンフレットで手厚い就職支援を謳うことはどこもやっていますが、それを裏付ける実績や数値を示すことができるところはごく一部と思います。)

 

以上の考えから、個人的には冨山氏を応援しています。しかし実務的には、冨山氏の提唱する「L型大学」や「プロフェッショナルスクール」の実現には大きな困難を伴うと考えます。まず、ありきたりですが実務経験を有する教員の不足と、既存教職員の抵抗(職業教育へのシフトについて来れない、だからといって解雇できない)が思い当たります。

 

また、高校生・保護者・高校の進路指導教員の大多数は極めて保守的です。偏差値上位→G型、下位→L型、というように偏差値序列が継承された場合、L型大学が魅力的な職業教育のカリキュラムを整備したところで、大幅な学生募集の好転は望めないでしょう。カリキュラムが優れていることを証明するには、少なくとも一期生を卒業させるまでの4年間が必要となります。目新しさが失われ、確たる実績も無い2・3・4年目の学生募集はかなりの苦戦が予想されます。「L型化」の試みが、学生集めに苦労している大学が一縷の望みを賭けて採用するような取り組みになった場合、成功の見込みは薄いと思います。

 

一方、従来の偏差値序列と一線を画した「プロフェッショナルスクール」を作る、という提案ですが、例えば医師になりたいという場合、大部分の保守的な高校生はまず大学医学部を目指すでしょう。そうすると最初の卒業生を送り出す前に「医学部に受からなかった人たちが目指す学校」というイメージが固まってしまい、開設初年度よりも優秀な学生を集めるのが難しくなります。結果的に国家試験合格率が伸び悩み、さらに人気が無くなるという、株式会社立の専門職大学院と同じ道を辿るような気がします。

 

産業界からすると、L型大学やプロフェッショナルスクールがあまり学力の高い学生を集められていないとなれば、その教育活動にコミットするインセンティブが働かなくなります。次第にインターンや卒業生の受け皿になろうという企業が少なくなり、職業と結びついたカリキュラムが形骸化していく恐れがあります。

 

ネガティブな見方かもしれませんが、とりあえず以上のような失敗シナリオが思い浮かびました。

一方で優秀な学生を集められる国公立大、早慶を筆頭とする有力私大がL型化を進めれば、確実に成功すると思います。例えば慶応大の薬学部・看護学部聖母大学を吸収して新設した上智大学看護学科などは、歴史が浅い割に同じ学部学科系統の中でも高い人気を誇っています。この要領でブランド力のある有力私大がL型の学部学科を開設していけば失敗は無いでしょう。

 

また、国公立大や早慶の文系学部の学生には、公務員試験・司法試験・公認会計士・税理士などの資格試験予備校に通っている学生が少なからずいます。資格試験予備校と連携した授業科目を学部学科のカリキュラムに取り込んでいる事例は増えてきていますが(東京経済大、神奈川大、武蔵野大など)、これを国立大・早慶が導入して予備校通学が不要なカリキュラムを組み、既存の文系学部を冨田氏の言うプロフェッショナルスクールに近い位置付けに転換させれば、今以上に人気が高まるのは確実と思います。とはいえ、これらの大学はG型大学たることを志向するので、職業人養成校への転換に学内理解を得にくく、実現性は低いかもしれません。先に述べた東京経済大・神奈川大・武蔵野大などが上位国家試験合格者を少しずつ増やすことができれば、現在の偏差値序列から外れ、冨田氏のいう「ツインピークス構造」のもう一つの頂を形成できる可能性があります。しかし、それにはかなりの時間を要するでしょう。

 

そんなこんなで色々と書き連ねましたが、今後もこの会議における議論には注目していきたいと思います。最後に、今となっては後出しジャンケンですが、G型L型の議論が出たときに考えた図を貼り付けておきます。

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専門学校の情報公開

大学・短大を持たない学校法人の定員充足状況や決算書は、ほとんど公開されていません。
私立高校や幼稚園に関しては監督官庁である都道府県庁都道府県教育委員会のホームページで定員充足率や補助金受給額のデータを取れる場合がありますが、専門学校に関しては内情が分からないことがほとんどでした。ところが、平成26年度から「職業実践専門課程」という制度※がスタートし、文科省から認定を受けた専門学校の財務情報がネットで取得できるようになりました。なお、定員充足状況や就職率については専門学校全体の数値ではなく、認定を受けた課程に限って公開されています。公開されている就職率の分母(就職希望者数)が基本情報に含まれていない点はやや不満ですが、全くのブラックボックスだった時代に比べれば前進したと言えるでしょう。

 

職業実践専門課程の認定状況について

 

地方私立大学にとって専門学校は手強い競争相手ですから、開示されている基本情報や財務情報は関心を持ってちょくちょく覗いています。財務情報に関しては文科省のサイトからリンクが貼られていないため、各専門学校のホームページから探し出す必要があります。多くの学校が非常に分かりにくい場所に、決算書から一部抜粋した数値だけを掲載しており、「できれば公開したくない」という本心が垣間見えます。この点は大学も同じで人のことを言えませんが。

 

とりあえず思い浮かんだ専門学校グループの決算書のリンク先を忘れないよう残しておきます。都築学園グループなど、傘下に大学や短大を抱える法人は大学・短大の情報公開ページから決算書を取れますので除いています。

 

学校法人モード学園

学校法人大原学園

(3/11追記:大原大学院大学を失念しておりました。が、大原大学院大学の情報公開ページに財務情報が見当たらなかったため、掲載しておきます。)

学校法人立志舎、学校法人立志舎中央

学校法人滋慶学園

学校法人麻生塾

学校法人新潟総合学院

学校法人国際総合学園

 

上記以外にも有名なグループがあればご教示ください。

 

傾向として、大学・短大よりも帰属収入に占める人件費の割合(人件費比率)が低いです。50%以下が主流のようです。大学・短大と比べて補助金が少ないため、その程度の割合に抑えないと採算が取れないと見えます。また、負債の部の金額を見るに、多くの法人が借入金で設備投資を行っているように見えました(モード学園除く)。大学法人に比べて専門学校法人の倒産が多いのはこのためでしょう。細かい比較は時間があるときにでもやってみたいと思います。

 

それぞれをざっと流して見ると、まずモード学園の収益力の高さに圧倒されます。帰属収入216億円に対し、資産処分差額を除いた消費支出は123億円、実質的な帰属収支差額は93億円の黒字となります。こちらは惜しげもなく財産目録まで公開されているのですが、これを見ると820億円の有価証券と265億円の特定預金・特定資産を保有しており、無借金経営でもあります。全国の学校法人の中でもトップクラスの蓄財ぶりと言えるんじゃないでしょうか。あれだけの一等地に大きいビルを建ててもなお、これほどの資産が残っているのは凄いと思いました。他の法人はこれほどまで儲かっていません。

 

ちなみに私立大学の場合は利益を出しすぎると「学費を下げたり教員を増やしたりして学生に還元しなさい」と監督官庁からチクリと言われたり、補助金を少しカットされたりします。私の大学にとっては要らぬ心配ですが。

 

職業教育の重要性が叫ばれる中で専門学校には注目が集まっており、専門学校における教育の質保証の論議が着々と進められています。専門学校にとってすれば、ゆくゆくは国の補助金投入など従来無かった便益が期待できる一方、教育の内容と成果に関する監視の目は強まり、新設・改組の規制強化や情報公開の義務付けなどによって経営の自由度が低下するおそれもあるため、良いことばかりとは言えないでしょう。

 

個人的には、情報開示が徹底され、ランキング等で専門学校同士の比較が進むことで、ようやく「広告宣伝・勧誘の巧みさ 」ではなく「教育内容の充実」を競い合う公正な市場が誕生すると思いますので、この流れは歓迎しているところです。

 

※ 専門家・実務家による指導と現場での体験・実践を組み込むといった要件を満たした職業教育のカリキュラムに対し、文科省から認定(お墨付き)を受けられる制度。

図: 職業実践専門課程に伴う情報公開のイメージ図

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“経営が危ない大学”とはどんな大学か

前回の“トンデモ大学”の内容とも関係しますが、毎年受験シーズンになると偏差値の高い低いをベースにして経営状態まで論じられることがあります。大学の経営状態を判断するうえで偏差値の高低や定員割れか否かは無関係とは言えませんが、「定員割れ=破綻予備軍」といった見方には少々誤りがあります。実際、何年も前から定員割れをしていても存続している大学は数多くあります(余裕は無いにせよ)。

 

今やほとんどの大学が定員充足率や決算書をネットで公開しているのですから、各メディアには偏差値や風聞に依拠せず、出所が明確な数値情報を複合的に分析した冷静な記事を書いてもらいたいと常々思います。ちなみに決算書をベースに経営状態が論じられない責任の一端は、学校法人会計特有の「基本金組入」という難解かつ存在理由が不明確な会計ルールにあると思います。詳細は長くなるので述べませんが、個人的には基本金制度を早く廃止してもらえないかと考えています。

 

さて、大学の経営状態を判断する指標は、私立大学・短大への補助金配分を行っている日本私立学校振興・共済事業団(通称・私学事業団)が↓に公開しています。

定量的な経営判断指標に基づく経営状態の区分(法人全体)平成25年度版

 

上記のリンク先にあるフローチャート図は、決算書をベースにして学校法人の経営状態をズバリ「正常状態」「イエローゾーン」「レッドゾーン」に分けるものです。今後、学校法人会計基準の変更に伴って改訂されると思いますが、とりあえずはこちらの平成25年度版が最新です。個人的にこのチャート図は、かなり正確・厳格に法人の経営状態を判定できると思っています。

 

このチャート図では以下の5項目を基準に学校法人の経営状態を峻別します。
1. 教育研究活動によるキャッシュフロー※1の多寡
2. 借入金の多寡
3. 現金及び現金同等物(投資有価証券など)の多寡
4. 帰属収支差額比率※2の大小
5. 積立率※3の大小

 ※1 企業会計で言うところの営業活動によるキャッシュフロー。学生から集めた学費と国や自治体からの補助金など、学校法人としての「本業」による収入から、教育研究活動の経費と人件費などを差し引いたもの。
 ※2 企業会計で言うところの売上高当期純利益率。
 ※3 要積立額(設備更新や退職金の支払に備えて積み立てておくべき金額)に対して現金及び現金同等物をどの程度蓄積しているか。

 

1.と5.を計算するのは若干面倒ですが、2.3.4.は消費収支計算書と貸借対照表から簡単に読み取れます。教職員の方はチャートを使って所属校やライバル校の台所事情を調べてみることをお勧めします。なお、チャート上で最上位のA1ランクになるには、帰属収支差額比率10%以上・積立率100%以上を達成する必要がありますが、これを成し遂げている学校法人は極めて少数という印象です。

 

私学の偏差値ツートップである早稲田・慶應、収容定員No.1の日大などでも、帰属収支差額比率が小さいのでこのチャートではA3相当になります。総合大学の中では相当に優れた財務体質を誇る神奈川大学でさえ、黒字幅が若干足りずA3ランクになってしまいます。大規模有名大学はそれだけ多くの教職員を抱えるほか、積極的に投資を行うため内部に資金が蓄積しにくく、財務体質だけを見ると必ずしも満点にならないことが分かります。

 

また、定員を充足している有名大学にしては珍しい事例なのですが、国際基督教大学は2008年度から帰属収支差額の赤字が続いており、ここ数年の決算書からはイエローゾーンが疑われます。高校生からの人気に加えて運用に回している資産も潤沢なため、経営が立ち行かなくなるほどの心配は無用と思いますが、今後の収支均衡に向けた動きは要注目と言えます。2015年度からの小幅(4万円弱)な学費値上げでは赤字を埋めきれないので、思い切った人件費削減が必要と見えます。

 

基本的に、イエローゾーンとレッドゾーンには定員割れの大学が多く含まれています。私学事業団は学校法人基礎調査を通じて全ての私立大学の決算書を集めているので、その気になれば「A大は正常、B大はイエロー、C大はレッド」などといったリストを公開できます。さすがに風当たりが強いのか今のところは公開していませんが、今後はどうなるか分かりません。

 

これが公開されてしまうと中小私大・地方私大は非常に殺伐とした状況に置かれるわけですが、大学業界の「参入が増える一方で淘汰が進まない」一因はこういった「情け」にあるとも言えます。個人的には、高校生達が風評に惑わされず、各大学の経営状態まで見て納得・安心して進学できる方が理想的と考えますので、公開の仕方は吟味するにせよ、アクセスしやすい場所に分かりやすい形で公開されるべきと思っています。また、大学からしても「公開されてしまう」というプレッシャーが作用する方が経営改善が進むと言えるでしょう。

 

将来的には大学ポートレートで財務情報まで検索できるようになるのでしょうか。それによって的外れな論評や根拠の薄い風評が減ることを期待します。

文科省の改善意見・是正意見

大学で四捨五入…「Fラン大学」が映し出す日本の未来 - DMMニュース

NHK報道を皮切りに各所で報道されていた上記のような記事について、気になったので調べてみました。

 

元を辿ると、文科省が例年実施している「設置計画履行状況等調査」の結果公表を受けての記事でした。上記の調査は大学・大学院の新設、学部の増設・改組などを行った後のアフターケアとして例年実施されているものです。調査対象校502校とありますので、全国の大学・高専の過半数が調査対象となっています。調査結果の本体はこちらです。 

 

調査結果を見ると、公立大学や有力私立大学(明治大学・法政大学など※)にも改善意見が出されています。また、改善意見には明治大学をはじめ「定員超過を是正しなさい」という内容も含まれていますので、DMMニュースの「Fラン大学」やJ-CASTの記事見出し「トンデモ大学253校」などはさすがに短絡的な言い方ではないでしょうか。PVを稼ぎたいのはわかりますが。 

 

とはいえ定員割れが状態化し、入試が機能しなくなっている大学が数多くあることは確かです。調査結果をざっと流し読みすると、知名度の低い大学のカタカナ学部が軒並み「定員充足率が0.7倍未満となっていることから、学生の確保に努めるとともに、入学定員の見直しについて検討すること」との改善意見を食らっている有様で、死屍累々といった状況に寒気を禁じ得ません。

 

文科省としても、昨年度の調査結果では「留意事項」と表現していたところを今年度から「改善意見・是正意見」に切り替え、大学への指導を強める姿勢を見せているのは、定員割れの多さに痺れを切らしているからかもしれません。

 

しかし、定員充足率70%未満の大学が「定員割れを改善せよ」と言われても、広告を増やしたり高校訪問を増やすだけで解決するとは思えません。そもそも、自分の大学の特色を出して学生集めを有利に運ぶためにカタカナ学部を新設するわけですが、そうした取り組みの失敗が明らかになった時点で、そこから先の志願者増は望み薄と言えます。

 

すなわち、文科省は暗に「入学定員を減らしなさい」と言っているのでしょうが、大学側からすると定員を減らした分だけ教職員を減らせる(解雇できる)わけではありません。定員充足率を100%に近づければ補助金収入は若干増えますが、学生数が増えるわけではないので学費収入は増えず、コストを減らせなければ収支の改善にはつながりません。さらに定員変更の事務手続も煩雑となれば、大学側としては後ろ向きになりがちです。撤退戦を戦うことは本当に難しいものです。

 

※ちなみに明治大学は「総合数理学部現象数理学科の入学定員超過を改善しなさい」との意見を出されています。同学科は定員160名に対して現員231名、定員充足率144%でした(参照元)。確かに意見を出されて仕方がないくらいに学生を取りすぎています。25年度は開設初年度で歩留まりの見極めが難しかったのでしょう。平成26年度入学生はほぼ定員ぴったりに改善されています。

はじめに

地方の私立大学で事務職員として働いています。縁あってこの業界に入り、丸3年が経過しました。入職当初は地域連携・生涯学習などを担当しておりましたが、今は補助金科研費関係の業務をメインで担当しています。

 

ご存知の通り、近年の大学を取り巻く環境はめまぐるしく変化しており、国立・公立・私立のいずれも様々なプレッシャーに晒されています。学生・企業・地域からの要求は強まり、国からは次々に新しい政策が打ち出され、他の大学は様々な取り組みでPR合戦を展開する最中にあり、自分の大学が進むべき方向を冷静に判断できないような状況にあると感じています。

 

とりわけ地方の私立大学は厳しい環境に置かれていますが、中にいると悠長な雰囲気が漂っているのが実情です。私のいる大学が今のところ、辛うじて定員割れしていないこともあるのでしょうが、18歳人口の減少で経営環境が悪化してゆくことは明らかです。働いている人の多数は「うちも危ないかな」と漠然とした危機感を感じているのですが、具体的な解決策や行動に現れてこないので、「このままでは“ゆでガエル”になる」と心配になってしまいます。

 

かく言う私自身も何か前向きな行動を取っているわけではなく、人のことばかり言える立場ではありません。入職4年目を迎えて後輩も増えてきましたので、これまでの姿勢を反省しつつ、とりあえず地方にいても金をかけず一人でできるSDということでこのブログを開設しました。

 

このブログでは、日々大量に放流される大学や教育に関する情報の中で気になったものや、大学業界・教育業界について考えたことなどを書きとめて整理し、大学職員としての知識と思考力を養っていきたいと思います。

 

緩いですが、週1回ペースの更新と1年以上の継続を目標にスタートさせていただきます。