ひとりSD

地方私大職員の備忘録

専門学校の情報公開

大学・短大を持たない学校法人の定員充足状況や決算書は、ほとんど公開されていません。
私立高校や幼稚園に関しては監督官庁である都道府県庁都道府県教育委員会のホームページで定員充足率や補助金受給額のデータを取れる場合がありますが、専門学校に関しては内情が分からないことがほとんどでした。ところが、平成26年度から「職業実践専門課程」という制度※がスタートし、文科省から認定を受けた専門学校の財務情報がネットで取得できるようになりました。なお、定員充足状況や就職率については専門学校全体の数値ではなく、認定を受けた課程に限って公開されています。公開されている就職率の分母(就職希望者数)が基本情報に含まれていない点はやや不満ですが、全くのブラックボックスだった時代に比べれば前進したと言えるでしょう。

 

職業実践専門課程の認定状況について

 

地方私立大学にとって専門学校は手強い競争相手ですから、開示されている基本情報や財務情報は関心を持ってちょくちょく覗いています。財務情報に関しては文科省のサイトからリンクが貼られていないため、各専門学校のホームページから探し出す必要があります。多くの学校が非常に分かりにくい場所に、決算書から一部抜粋した数値だけを掲載しており、「できれば公開したくない」という本心が垣間見えます。この点は大学も同じで人のことを言えませんが。

 

とりあえず思い浮かんだ専門学校グループの決算書のリンク先を忘れないよう残しておきます。都築学園グループなど、傘下に大学や短大を抱える法人は大学・短大の情報公開ページから決算書を取れますので除いています。

 

学校法人モード学園

学校法人大原学園

(3/11追記:大原大学院大学を失念しておりました。が、大原大学院大学の情報公開ページに財務情報が見当たらなかったため、掲載しておきます。)

学校法人立志舎、学校法人立志舎中央

学校法人滋慶学園

学校法人麻生塾

学校法人新潟総合学院

学校法人国際総合学園

 

上記以外にも有名なグループがあればご教示ください。

 

傾向として、大学・短大よりも帰属収入に占める人件費の割合(人件費比率)が低いです。50%以下が主流のようです。大学・短大と比べて補助金が少ないため、その程度の割合に抑えないと採算が取れないと見えます。また、負債の部の金額を見るに、多くの法人が借入金で設備投資を行っているように見えました(モード学園除く)。大学法人に比べて専門学校法人の倒産が多いのはこのためでしょう。細かい比較は時間があるときにでもやってみたいと思います。

 

それぞれをざっと流して見ると、まずモード学園の収益力の高さに圧倒されます。帰属収入216億円に対し、資産処分差額を除いた消費支出は123億円、実質的な帰属収支差額は93億円の黒字となります。こちらは惜しげもなく財産目録まで公開されているのですが、これを見ると820億円の有価証券と265億円の特定預金・特定資産を保有しており、無借金経営でもあります。全国の学校法人の中でもトップクラスの蓄財ぶりと言えるんじゃないでしょうか。あれだけの一等地に大きいビルを建ててもなお、これほどの資産が残っているのは凄いと思いました。他の法人はこれほどまで儲かっていません。

 

ちなみに私立大学の場合は利益を出しすぎると「学費を下げたり教員を増やしたりして学生に還元しなさい」と監督官庁からチクリと言われたり、補助金を少しカットされたりします。私の大学にとっては要らぬ心配ですが。

 

職業教育の重要性が叫ばれる中で専門学校には注目が集まっており、専門学校における教育の質保証の論議が着々と進められています。専門学校にとってすれば、ゆくゆくは国の補助金投入など従来無かった便益が期待できる一方、教育の内容と成果に関する監視の目は強まり、新設・改組の規制強化や情報公開の義務付けなどによって経営の自由度が低下するおそれもあるため、良いことばかりとは言えないでしょう。

 

個人的には、情報開示が徹底され、ランキング等で専門学校同士の比較が進むことで、ようやく「広告宣伝・勧誘の巧みさ 」ではなく「教育内容の充実」を競い合う公正な市場が誕生すると思いますので、この流れは歓迎しているところです。

 

※ 専門家・実務家による指導と現場での体験・実践を組み込むといった要件を満たした職業教育のカリキュラムに対し、文科省から認定(お墨付き)を受けられる制度。

図: 職業実践専門課程に伴う情報公開のイメージ図

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