ひとりSD

地方私大職員の備忘録

公立化の問題点をまとめておく

年度末の〆と年始の事務作業で忙しい日が続き、開始早々1ヶ月近くサボってしまいました。

この間、26年度の経常費補助金の配分状況やら27年度の配分方法、各種国家試験の大学別合格率の発表など、書くべきネタが目白押しでしたが、とりあえず学研・進学情報に掲載されていた地方私大の公立化に関する記事を見て思うところがあったので、今回はそれについて書いておこうと思います。

 

特別レポート 公私協力方式の私大の公立化

 

上記の記事は、公立化を進めている福知山市の成美大学と山陽小野田市山口東京理科大学を例に挙げ、地方にとって専門性を有する大卒人材は大切であり、地域への人材輩出を担う地方大学の役割は重要である、公立大学ならば学費が安く地元高校生にとって有力な選択肢となる、出願先として全国区となり域外から学生が流入して学びの質が高まることが期待できる、地域の活性化にもつながる、よって公立化は歓迎すべき、といった論調で書かれています。

 

確かに大学が一つしかないような地域においては、小規模であっても若者や専門知識を有する人材(教員)が集まる場所として大学の存在感は大きく、地元経済に与える影響も考慮すると、失くしてしまうのは避けたいと考えるのは自然と思います。しかし、現状の公立化のあり方に少なからず疑問があります。と言うのも、公立化が「学生募集で行き詰った大学への救済措置」という側面が強いからです。

 

これまでに公立化した大学は、開設資金を自治体が負担する「公設民営方式」で設置された大学だけでしたので、自治体からすれば大学存続を支援することが公有財産の保全につながるという側面もあります。それらの過去の財務情報を見ると、財務体質がさほど悪化してしない段階で公立化を図っていました。しかし最近の事例を見ると、学生募集のみならず財務体質も深刻なまでに悪化している大学が散見されます。本来ならば大学間競争の中で市場から退出すべき大学が、公立化によって大幅な価格低減を実現し、一発逆転で生き長らえようとしている、というようにも見えるわけです。

 

特に地方の大学は、国立>公立>>>私立といった序列で固まっています。都市部の高校生・保護者ならば、「地方の国公立大に進むよりは自宅から通えるMARCHクラスを目指そう(私立>国公立)」といった進路選択も成り立つでしょうが、保護者の所得水準が低い地方においては、保護者も教師も生徒本人もまず国公立を希望し、学力の高い生徒から国公立に入っていきます。

 

地方私大は、国公立に進めなかった生徒の中から可能な限り優秀な人物を定員分だけ確保すべく、魅力ある学部・学科構成を整備したり、教育研究の質向上・進路指導や学生サービスの充実を図ったり、積極的な広報活動を展開したりと、大学同士で競い合っているわけです。そうした中にあって、私立の中で下位にあった大学が、公立化することで一気に他の私大を飛び越え、学力の高い生徒をかっさらっていくのは倫理的にいかがなものかと思います。

 

18歳人口が減少してパイが縮小する中、下位校から次々に公立化していった場合、地道な経営努力によって健闘している私大でも公立大に生徒を奪われ、定員割れに陥ってしまう可能性が十分にあります。長野の新県立大学に反対する松本大学も「民業圧迫」を訴えているわけですが、公立校の増設や定員増は近隣の私立大学にとっては非常に痛手となります。松本大学は優れた地域貢献の取組で大学関係者には有名ですが、これまで頑張って貢献してきた自治体が逆に自分達に不利な方向へ動いているとなっては、憤りたくなるのも当然でしょう。

 

公立化は雇用が維持される教職員をはじめ、地元の高校生・保護者にとってはありがたいことです。また、引き受ける自治体には公立大学の運営経費として総務省から補助金が貰えるため、さほど痛みはありません。しかし、公立化で学費が安くなった分は税金で賄われるので、国全体では高等教育予算の拡大を招くことになり、「ミッション再定義」やらで国立大学の予算を減らそうという文科省なり財務省の動きには逆行しています。「競争力のある大学に予算を重点配分する」という近年の文科省の方針に照らし合わせても、競争力の低い大学への救済措置として公立化が行われることは問題視されているでしょう。

 

ただでさえ大学が多いと言われる時代です。公立化と言い出す前に、カリキュラムの見直しや定員削減、人件費削減、他大学との合併などの施策は十分に協議されたのでしょうか。「公立化すれば学費が安くなります」というだけで、中身は大して変わっていない、という状況にはなっていないでしょうか。国の税金投入を増やしてまで存続させるだけの、人材輩出なり地域貢献なりの実績はあるのでしょうか。こうした議論が透明な場所で行われていない限り、納税者の納得は得られないでしょう。

 

「地方創生」の大義の下に公立化が許容される時期がしばらく続くのか、あるいは歯止めをかけるための指針が早々に公表されるのか、どちらに転ぶか注目されます。厳しいルールが設けられる前に、危ない大学から我先にと、地方創生の波に乗って安易な公立化ラッシュを起こしたりしないことを祈ります。

 

などと偉そうに言いながら、弱小私大に勤める身としては、勤め先が公立化してくれたらどれだけ頼もしいことだろう、と思ってしまうのが本心です。自分の勤め先は、いざ公立化してくれないかという時に、周囲から反対運動が起こらない程度に、健全な財務体質と地域貢献の実績と、高い政治力を兼ね備えていなければ、などと思っています。

 

(メモ)

<公立化した大学>

高知工科大学(2009)、名桜大学(2010)、静岡文化芸術大学(2010)、鳥取環境大学(2012)、長岡造形大学(2012)

 

<公立化準備中・協議中の大学>

長野大学(公設民営)、成美大学、旭川大学、新潟産業大学、山口東京理科大学

 

<残る公設民営大学

稚内北星学園大学東北公益文科大学東北芸術工科大学姫路獨協大学九州看護福祉大学

 
 

(今回の要点)

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