ひとりSD

地方私大職員の備忘録

改革総合支援事業は経常費補助金交付額にどう影響したか? (その1)

補助金の交付状況|私学振興事業(助成業務)|私学事業団

 

26年度の交付状況が公表されたら、やってみようと思っていたことがあります。今回・次回はその内容です。

25年度より、文科省が推奨する取り組みの実施状況に応じて経常費補助金を傾斜配分する「私立大学等改革総合支援事業」が始まりました。大学に対する経常費補助金の配分総額は横ばいのため、改革総合支援事業の選定校に対する補助金の増額分は、落選校の減額分から充当されることになります。改革総合支援事業が経常費補助金交付額にどの程度の影響を及ぼしたか、事業開始前の24年度と、25・26年度の配分額を比較しながら検証したいと思います。改革総合支援事業とは、文科省が推奨する数タイプの取組をどれだけこなしているか、大学別に実施状況を得点化し、合格点に達している大学に補助金を付ける事業です。26年度は「大学教育の質向上」「地域発展」「産学連携」「グローバル化」の4タイプ、25年度は3タイプで実施状況の調査がありました。ざっくり喩えるならば、国語・算数・理科・社会のテスト用紙を大学に配り、「何科目で合格点が取れたかな?より多くの科目で合格点を取れた大学を優遇しますよ」といったイメージです。25年度はテストが3科目、26年度は4科目に増えました、と言ったところでしょうか。事業の詳細は以下のリンク先をご確認ください。

私立大学等改革総合支援事業:文部科学省

 

まず、上記リンク先に公開されている選定状況を基に、25年度に合格点を取った科目の数(=選定数)を横軸、26年度の選定数を縦軸に取ってクロス集計しました。なお、改革総合支援事業は選定されなかった大学が公表されないため、経常費補助金が交付されている568校を母数としました。改革総合支援事業のテストを受けたのは、この568校のうち505校です。テストを受けなかった63校は26年度選定ゼロの249校に含まれています。

f:id:mita_jirou:20150507173034p:plain

26年度に4つのテスト全てで合格点を出せたのは僅か8校と、非常に少数です。ちなみに収容定員8,000人以上かつ3大都市圏に立地する大学は最大3科目しか受験できない仕組みになっていますので、4科目で合格点を出せるのは地方に立地しているか、8,000人以下の中堅大学に限定されます。4つ全部で合格点を出した8校は、云わば「中堅私大・地方私大の星」「大学改革の優等生」といった位置付けと言えるでしょう。私も勤務先でテストの回答作成に関わりましたが、よほど優秀な教職員が揃っているか、トップ層(理事長・学長)が強力なリーダーシップを発揮するか、どちらかでなければ全科目合格は無理と感じました。経営資源に乏しい地方の大学は後者(理事長・学長)の要素が強いと思います。

この優秀な8校とは、
青森中央学院大学
仙台大学
国際医療福祉大学
明海大学
芝浦工業大学
女子美術大学
金沢工業大学
福岡工業大学
です。右に☆がついている4校は、25年度も全科目合格点の超優等生です。

さて、今回はこの8校の経常費補助金受給状況を観察します。経常費補助金は、学生数や教職員数に応じて決まる一般補助と、文科省が推奨する取組(障害者対応や就職支援、経済困窮者対策など)の実施状況に応じて決まる特別補助に分けられます。テストで合格点を取ると、点数に応じて800~1,200万円の金額が経常費補助金の特別補助に上乗せされます。また、一般補助のうち教員経費と学生経費に対する補助が増額(26年度は19.1%増)されます。上記8校は特別補助で4科目×800~1,200万=3,200~4,800万、一般補助でいくらかの上乗せがなされていることになります。特別補助は金額の内訳まで公開されていますので調べることも可能ですが、大変なのでそこまでは追わないことにします。

以上を踏まえ、「優秀な大学にどれだけ嵩上げされたか」見てみたいと思います。まず、金額の推移について表とグラフを用意しました。なお、合計=一般補助+特別補助 です。

 

f:id:mita_jirou:20150507173043p:plain

 

f:id:mita_jirou:20150507185734p:plain

 

…いかがでしょうか。特別補助だけのグラフはやや右肩上がりの傾向が見えますが、一般補助及び合計のグラフにはくっきりした傾向は見えません。今度は、改革総合支援事業が始まる前の24年度の補助金額を100とした場合の比較で作表・作図してみました。

 

f:id:mita_jirou:20150507173106p:plain

 

f:id:mita_jirou:20150507185745p:plain

 

先ほどより移り変わりが見えやすくなったと思います。

何より明海大学の落ち込み具合が目立ちますが、これは同校歯学部の入学定員超過が原因と思われます。医歯学部は入学定員の1.1倍以上の学生を入学させると経常費補助金が貰えなくなります。ホームページを見るかぎり、120名定員のところ137名の入学者がいたようです。131名に抑えておけばペナルティは科せられなかったことでしょう。僅か6名でこれほどの差が出るとは恐ろしいものです。これは改革総合支援事業とは無関係の内容ですね。

 

補助合計額の上昇幅が一番大きかったのは青森中央学院大学、次いで福岡工業大学女子美術大学ということが分かりました。一方、芝浦工業大学金沢工業大学については24年度よりも減少していました。この2校は大学改革に熱心な大学として有名ですので、減っているのが意外でした。仙台大学は一般補助の減額分を特別補助の増額で補い、24年度より受給額を増やしていますが、収容定員が多く一般補助の金額が大きい大学は減額分を賄いきれなかった、といったところでしょうか。

 

改革への取組状況に関係なく配分される一般補助は縮小し、特別補助やスーパーグローバル・AP・COCなどの競争的資金で差を付けよう、というのが昨今の大学行政のトレンドですが、色んな取組を積極的に進めているからといって一律に優遇される訳では無いことが分かります。規模の大きい大学にとって改革総合支援事業は、選定された・されなかったで一喜一憂するほどの影響は無いとも言えるでしょう。

 

一方、小規模大学にとっては、大切な補助金収入を前年より10%・20%と増やせる機会となるのですから、一生懸命取り組む価値はありますし、選定され続けた大学とそうでない大学では長期的に大きな開きが生ずると思われます。もっとも、この事業がそこまで長く続くとも思っていませんが。

 

次回は、優秀な大学と選定されなかった大部分の大学とを比較します。